函館に関連するニュースで「道路の柵の高さは110cmと定められている」というような話を急に目にするようになりました。
正直、「初めて知ったなあ……」という方も少なくないのでは。私もその一人です。
もし本当に110cmが基準だとすると、世の中にある110cmより低い柵は違反なのでしょうか。もし転落事故が起きた場合、道路の管理者は責任を負うのでしょうか。
ニュースではそこまで教えてくれなくてモヤモヤするので、道路の転落防止柵について調べてみました。
「110cm」はどこから出てきた数字?
道路の転落防止柵については、国土交通省の「防護柵の設置基準」があります。
この基準では、歩行者などの転落を防ぐために設置する柵について、路面から柵の上端まで110cmを標準としています。
一方、歩行者の横断を防ぐことを目的とした柵は70~80cmが標準です。
では、道路や橋にある転落防止柵は、すべて110cm以上あるのでしょうか。
実際には、古い橋や道路などを中心に、110cmより低い柵もあります。現在の基準が定められる前から使われている施設もあるためです。
では、そうした低い柵のある場所で実際に転落事故が起きたことは、これまであるのでしょうか。そして、その場合に裁判所は「柵が低かった」という事実をどう判断してきたのでしょうか。
過去の判例を調べてみました。
高さ50cmの柵で、管理責任が認められた例
大阪地裁が2009年2月19日に言い渡した判決があります。
駅前の市道に、高さ約50cmの転落防止柵がありました。
酒に酔った歩行者が柵に膝をぶつけてバランスを崩し、柵を越えて約3m下へ転落。大きなけがを負いました。
この柵は、昭和初期に設置されたとみられる古いものでした。
裁判所は、
- 柵の高さが約50cmしかなかった
- 駅前で多くの歩行者が利用する道路だった
- その後、転落防止柵は110cmが標準とされるようになった
- 柵の老朽化が進み、修理も繰り返されていた
といった事情を考慮しました。
その結果、道路が通常備えるべき安全性を欠いていたとして、市の管理に問題があったと判断しています。
一方で、歩行者自身もかなり酒に酔っていたことなどから、8割の過失相殺が行われました。
つまり、管理者に責任があると判断されたからといって、事故の責任がすべて管理者側にあるとは限りません。
橋とフェンスの「すき間」が問題になった例
橋についても判例があります。
福岡地裁が2010年8月10日に言い渡した判決です。
橋の欄干と、川沿いに設置された高さ150cmの金網フェンスとの間に大人がすり抜けられるほどのすき間があり、男性がそこから約7m下へ転落して死亡しました。
裁判所は、基準に合っていないことだけで、直ちに道路の設置・管理に瑕疵があったとはいえないとしつつも、
・約7mの落差があった
・交通量の多い道路だった
・小中学生を含むさまざまな人が通行していた
・周辺では同じようなすき間をふさぐ対策が行われていた
などを総合的に判断しました。
その結果、通常備えるべき安全性を欠いていたとして、道路管理者側の責任を認めています。
一方、男性は飲酒していたことから、8割の過失相殺となりました。
この判決からも、裁判所が単純に「基準に合っているか」だけを見ているわけではないことが分かります。
逆に、低い柵でも責任なしとされた例
一方で、柵が現在の110cmよりかなり低くても、管理者の責任が認められなかった判例があります。
最高裁1978年7月4日判決です。
6歳の子どもが道路端の防護柵から約4m下へ転落した事故でした。
柵の上段は約65cmの高さでした。当時の建設省道路局長通達では、防護柵の高さは路面から60cmが基準とされており、この柵はそれを上回っていました。
また事故は、6歳児が普通に道路を歩いていて転落したのではなく、上段の手すりに後ろ向きに腰掛けていた際に転落したものでした。
裁判所は、通常の通行時の転落を防ぐという目的から見れば、安全性を欠いていたとはいえないと判断しました。
つまり、柵が低いというだけでは、管理者の責任は決まらないという例です。
裁判所は「何cmか」だけを見ていない
これらの裁判例を見ると、道路の転落防止柵については、「柵が110cm未満だから直ちに管理者に責任がある」と判断されているわけではないことが分かります。
事故が起きた場合には、
・どれほどの落差があるか
・普通に歩いていてバランスを崩した場合に越えてしまう高さか
・多数の人が利用する場所か
・転落すれば重大事故になることが容易に予見できるか
・現行の110cm基準からどの程度離れているか
・管理者が危険性を把握できたか
・過去に改修する機会があったか
・警告や立入制限など別の安全措置が取られていたか
・利用者側に通常想定しにくい行動がなかったか
など、さまざまな事情が見られているようです。
柵があるから絶対に安全、というわけでもありません。道路を利用する側としても、足元や周囲には気を配って歩きたいところです。






