この記事は、北斗市が専門家を招いて2007年に開いた講演会のレポート記事を再掲したものです。佐々木の署名記事として、当時存在した「北海道のニュースサイトBNN」に掲載されました。
すでに同サイトは消滅していますが、記事の本質は10年以上経過した今も変わらないどころか、ますますその重みを増していることから、あらためて掲載することにしました。
人物の肩書きを含めてすべて当時のまま掲載しますので、お読みになる際はご注意ください。
「新幹線で街は栄えない」 全駅を乗り降りした自称オタクの銀行マンが講演
「私は誰よりも新幹線推進派。ただし、新幹線が通ると街が衰退するケースが極めて多いのが現実」。
北海道新幹線開通の折に「新函館駅」(仮称)が置かれる北斗市(旧上磯町・旧大野町)の住民にショッキングな事実を突き付けたのは、日本政策投資銀行地域企画部参事役の藻谷浩介氏。24日に北斗市総合文化センターで開催された「北斗市誕生記念シンポジウム」でのことだ。このセミナーには約140人の市民が参加し、北海道新聞函館支社の主催で行なわれた。
「私は日本全国の新幹線駅で乗り降りし、地域の現状を見てきた“オタク”。どんな偉い先生の言うことより正しい」と豪語する藻谷氏は、独自にまとめた豊富なデータをもとに、新幹線と地域の発展の関連性について論じた。
同氏が全国の都市を比較してまとめたデータによると、都市の人口の増減率は、その都市圏に新幹線駅があるかどうかと何の関係もない。むしろ、新幹線の終着駅である青森県の八戸市は、全国の人口30万人以上の都市で最も人口流出率が激しい。これを踏まえて藻谷氏は「新幹線は人口を流出させる効果が非常に大きい」と発言。「終着駅効果があるとか、新幹線で街が栄えるという主張には何の根拠もない」と市民の新幹線に対する幻想を打ち砕いた。
次いで藻谷氏は、長野県内で新幹線が通った場所の観光客が減り、通らない場所に観光客が増えたケースなどを挙げ、「新幹線が通ると観光客が減るのが全国的な傾向」と説明した。その理由を同氏は「新幹線が通ると風情が壊れ、すぐに帰ろうという気持ちになるから」と分析。新幹線駅から10キロ程度、時間にして1時間程度離れた場所が栄える傾向が顕著だという。その点から言うと現在の函館駅から18キロ離れた新函館駅の存在は実は函館市にとって有利だとした。
次々と根拠なき“新幹線効果”への期待を打ち砕く藻谷氏は、畳み掛けるように駅前開発の必要性も否定。「新大阪駅の駅前を5分歩いてください。スーパーもデパートも駅ビルも何もありません。これを見たら、自分の街にそれらができるわけがないとわかります」
「新幹線を降りた人が、イオンやサティやポスフールに入るわけがない。旅行者に必要なのは、土産物屋や弁当屋、飲食店だ」と指摘する藻谷氏は、大規模店でなく小さな店を増やし、地元の産品を売ることこそが地域の栄える道だと説いた。
また、新幹線を降りた人は中心街・繁華街に向かい、帰りに駅まで来た人は泊まらずにそのまま新幹線で帰ることから、駅前にホテルを建てる必要もないと述べた。
「新幹線駅は空港と同じ。駅前に必要なのは空港にあるもの」というのが、全国の新幹線駅を巡った“オタク”の結論。その意味では、新幹線駅前に最も必要なのは広い駐車場なのだという。
北海道新幹線の開通を見据えて、何かしなければと浮き足立つ感のある周辺自治体や商業者にとって、「新幹線では街は栄えない」との藻谷氏の言葉はある意味で厳しく、ある意味で安心感を与えたものだったかもしれない。
なお、講演者の藻谷浩介氏は現在、日本総合研究所調査部主席研究員として調査研究と講演活動などを行っており、『デフレの正体』『里山資本主義』などの著書はまちづくりに携わる人にとって必読の書となっています。
佐々木康弘
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